引越しの考え方 約10分

予定説・風水・奇門遁甲と並べると、引越しは方位と日取りのどちらが重いのか

方位と日取りは同じ重さではありません。年盤で塞がった方位は日取りをどう選んでも動かず、実測では365日すべてが最低評価でした。カルヴァンの予定説・風水・奇門遁甲・択日を「どこまで決まっていて、どこから選べるか」で並べ、順序が思想ではなく構造から決まることを書きます。

予定説・風水・奇門遁甲と並べると、引越しは方位と日取りのどちらが重いのか — 記事の要点を図にしたもの

先に結論

  • 方位が先、日取りが後です。これは思想の好みではなく、塞がる期間の長さが違うという構造から出てきます
  • 実測(2027 年・六白金星・名古屋)では、年盤で塞がった 4 方位は 365 日すべてが最低評価でした。日取りをどう選んでも動きません
  • 年盤は下限だけでなく上限も決めます。年盤が平の方位には、三盤吉の日が 1 日も出ません(三盤吉は年・月・日の 3 つとも吉であることなので)。実測でも東は 0 日でした
  • 体系ごとに重心が違います。風水は空間、択日(六曜・天赦日)は時間だけ、奇門遁甲は時刻、九星気学は年・月・日の三盤です
  • カルヴァンの予定説は「人の選択では変わらない」と考えます。東洋の術数はそこまで踏み込まず、生まれ(命)は動かせないが、方位と日取りは選べるという立て方をします。全部が決まっているなら、そもそも選日も選方も要りません

この記事は「どちらを信じるべきか」の話ではありません。どちらが先に決まってしまうのかを、盤の構造と実測で確かめるためのものです。

「決まっている」には度合いがある

方位や日取りの話は、突きつめると「人生はどこまで決まっているのか」という問いに触れます。ここを一度整理しておくと、方位と日取りの重さの違いも見通しがよくなります。

ヨーロッパ側でいちばん強い形を取ったのが、ジャン・カルヴァン(1509〜1564)の予定説です。誰が救われるかは神によってあらかじめ定められており、人の行いによっては変わらないとされました。人は自分が選ばれているかどうかを知ることもできません。

これは奇妙な帰結を生みます。何をしても変わらないなら、何もしないのが合理的に見えます。マックス・ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(1904〜1905 年)で論じたのは逆の筋でした。知りえないという不安が、かえって世俗の職業労働への専心を生んだという見立てです。この議論自体は発表当時から現在まで論争が続いており、決着した定説ではありません。

東洋の術数は、ここまで踏み込みません。伝統的には五術(命・卜・相・医・山)という分け方があり、扱うものが違います。

区分何を見るか例人の側で選べるか
命生まれ四柱推命・紫微斗数・本命星選べない
卜その時々の判断易・奇門遁甲選べる
相環境・かたち風水・家相・人相選べる
医心身の養生漢方・鍼灸選べる
山修養導引・内丹選べる

方位も日取りも「選べる側」に置かれています。これは偶然ではありません。全部が動かせないなら鑑定という仕事が成り立たないからです。逆に何も決まっていないなら、暦も盤も要りません。術数は「決まっている部分」と「選べる部分」を分けたところに成立しています。

九星気学でいえば、本命星と天中殺が「命」に当たります。生年月日から決まり、あとから変えられません。それに対して、どこへ動くか(方位)といつ動くか(日取り)は、利用者の側にあります。

方位と日取りは、どちらが先に決まるのか

ここからは実測です。1985 年 5 月 20 日生まれ(本命星は六白金星、空亡は子丑)の人が名古屋から動く場合について、2027 年の立春(2 月 4 日)から翌年の立春の前日まで 365 日 × 8 方位を、このサイトの判定エンジンで数えました。同じ数え方を生年月日の違う人で比べたのがこの道具で決められること、決められないことです。

方位年盤三盤吉(S)吉を含む日(S・A・B)
北五黄殺0 日0 日
北東歳破0 日0 日
東平0 日31 日
南東吉方位29 日76 日
南暗剣殺0 日0 日
南西本命殺0 日0 日
西吉方位11 日93 日
北西吉方位12 日56 日

読み取れることは 3 つです。

年盤で塞がった方位は、日取りでは 1 日も取り返せません。北・北東・南・南西は 365 日すべてが最低評価(五大凶殺あり)でした。月盤と日盤がどれだけ良い日でも、年盤の凶が残るためです。この 4 方位について「良い日を選ぶ」という作業は、最初から成立していません。凶を吉で上回れるかという問いに同じ答えが出る理由は凶方位への移動を、吉が上回ることはできるのかにあります。

年盤が平だと、三盤吉は原理的に出ません。東は 31 日が残りますが、そのうち三盤吉は 0 日です。三盤吉は年・月・日の 3 つとも吉であることを指すので、年盤が平(凶ではないが吉でもない)の時点で条件を満たせません。東で取れる最上位は A(吉 2 盤)で、それも 2 日だけでした。年盤は下限だけでなく、届く上限も決めています。

年盤が吉でも、日取りは自動では決まりません。西の 93 日が最も多く、北西は 56 日です。年盤が吉でも、月盤・日盤にはそれぞれ別の五黄殺・暗剣殺があり、そちらで塞がる日が残ります。つまり日取りは「年盤で残った方位について、さらに絞り込む」作業になります。

順序は入れ替わりません。方位を決めてから日取りを選ぶことはできますが、日取りを先に決めてから方位を取り返すことはできません。年が塞ぐ範囲と日が塞ぐ範囲の長さが違うからです。引き渡し日が先に決まっている場合にどうするかは引き渡しは選べない。年盤が1年塞ぐときに分けて書きました。

日数が多い方位を選ぶのか、少なくてもよいのか

上の表を見ると、次に迷うのはここだと思います。三盤吉の日が多い方位を選ぶべきなのか、少ない方位でも、その三盤吉の日に動けばよいのか。

日数は日の質ではなく、段取りのしやすさを表しています。段階はその日その方位の盤だけから決まり、「その方位に何日あるか」は計算に入りません。北西の三盤吉(12 日)と南東の三盤吉(29 日)は、同じ三盤吉です。少ないほうが格落ちするということはありません。

ですから答えは、少なくてもその日に動いてかまいません。日数が効くのは、その日に合わせられるかどうかのほうです。

ただし、「少ない」と「無い」は別です。東は 0 日なので、選ぶべき三盤吉の日がそもそも存在しません。ここだけは日取りで解決できません。

数え方を変えると順位が入れ替わります。吉を含む日で並べると西(93 日)が最多ですが、三盤吉で並べると南東(29 日)が最多で、西は 11 日です。「日数が多い方位」と言うとき、どちらの数え方かで別の方位を指します。

実際に動ける日は、さらに減ります。天中殺(期間の禁忌で、方位の段階とは独立に判定しています)に当たる日を外すと、三盤吉は南東 18 日・北西 10 日・西 7 日になりました。天中殺が方位ではなく期間の禁忌であることは天中殺と吉方位は何が違うのかで分けて書いています。

そして散らばり方が違います。

方位三盤吉天中殺を外すと三盤吉が出る月
南東29 日18 日7 か月
北西12 日10 日3 か月
西11 日7 日4 か月

北西の 12 日は 2027 年 6〜8 月の3 か月に固まっています。引き渡しが秋に決まっているなら、北西は日数があっても使えません。逆にその時期に動けるなら、12 日でも困りません。

順序としてはこうなります。

  1. 年盤で塞がっていない方位に絞る(ここは日取りでは動かせません)
  2. 自分が動ける時期に、その方位の三盤吉が出るかを見る
  3. 出るなら、その中から日を決める。出ないなら A(吉 2 盤)まで落として同じことをする

選ぶ基準は「多いほう」ではなく、自分が動ける時期に出るほうです。日数は、その判断のための材料にすぎません。

A・B のさらに下に、3 枚とも平の C(凶なし)の日があります。8 方位の表の「吉を含む日(S・A・B)」には入れていませんが、C の日にも凶は入っていません。三盤吉が 0 日の方位に凶の無い日がどれだけ残るか、平の日に動くことを流派がどう見ているかは三盤吉の日でなくても、凶の無い日なら引越しに使えるのかに分けて書きました。

体系によって重心が違うのはなぜか

「方位が重い」も「日取りが重い」も、体系ごとの答えとしてはどちらもあります。何を動かせない前提に置いているかで変わります。

体系主に見るもの動かせない前提
風水(陰宅・陽宅)空間建物や墓は動かない
択日(六曜・天赦日・一粒万倍日)時間場所は問わない
奇門遁甲時刻ごとの盤短時間で状況が変わる
九星気学年・月・日の三盤引越しは一度きりで長く効く

風水は墓や住居の位置と向きを論じるところから広がったとされ、対象が動かないぶん空間の比重が大きくなります。「風水」という語の早い例が墓の書に出ることや、羅盤に針が 3 本ある事情は風水はどこから来たのかにまとめました。

択日(日取りだけを見る系統)は、そもそも方位を持ちません。六曜も天赦日も一粒万倍日も、入力は日付だけです。このサイトの実装でもこれらは日付だけを受け取る関数で、方位の引数がありません。「大安に引っ越せば方位は関係ない」とはならないのは、別の軸を見ている道具だからです。暦注がどう組み上がったかはなぜ「時」に吉凶が決まると考えたのかにあります。天赦日と一粒万倍日が引越しの日取りにどう関わり、方位の凶を打ち消さないことは天赦日・一粒万倍日は引越しの日取りにどう関係するのかに書きました。

奇門遁甲は、九宮に門・星・神を配して時刻ごとの盤を立てる体系です。黄帝や張良、諸葛亮に仮託して語られることが多いものの、現在の形にまとまったのは後代とされ、成立年代には諸説あります。もともと軍事・兵法の文脈で語られてきたことと、数時間単位で状況が変わるという前提が、時盤中心という重心につながっています。

九星気学が年・月・日の三盤を使うのは、引越しという行為の粒度に合わせた結果と見るのが素直です。引越しは数時間で選び直せませんが、一生の回数も限られます。なお「九星気学」という名前と体裁そのものは新しく、園田真次郎が大正 13 年(1924 年)に名づけたものです。詳しくは九星気学と方位はどこから来たのかに書きました。

体系ごとの入力と出力の違いは九星気学以外の評価基準、系統の数え方は流派はどれくらいあるのかにあります。

研究としては、どこまで分かっているのか

歴史の研究としては、多くの体系が実際の成立より古い時代に仮託されていることが分かっています。奇門遁甲の黄帝・張良・諸葛亮、風水書の郭璞(276〜324)への仮託がその例です。古い名前を冠することは権威づけの作法でもあり、書かれた年代と主張された年代がずれること自体は珍しくありません。

一方、吉凶の当否そのものについては、裏づけとなる統計的な証拠は確認されていません。このサイトもそれを主張しません。何が確かめられていて何が確かめられていないかは方位や九星に統計的な裏づけはあるのかにまとめてあります。

予定説の側も同じで、ウェーバーの議論は社会科学上の仮説であり、支持と反論の双方があります。決まっているかどうかを確かめる方法がない点では、東西で変わりません。

確かめられるのは、それぞれの体系が内部でどういう構造を持っているかです。上の実測が示しているのは「方位のほうが偉い」ということではなく、年盤という層が 1 年間動かない以上、順序はこうなるしかないという構造の話です。

Cloud Palette ではどう出るか

このサイトは方位を九星気学の三盤で、時期を六曜・天赦日・一粒万倍日・土用・天中殺で見ています。評価はサイト全体で S〜X の段階評価 1 系統です。

  1. 今日の方位と時刻を確かめるで、出発地から見た 8 方位のうち年盤が空いている方位を確認する
  2. 引越し時期を分析するで、その方位について年・月・日の三盤がそろう日を 2 年先まで一覧にする
  3. 候補の街まで絞るときは方位で街を探すで、吉方位に当たる市区町村と家賃相場を突き合わせる

順序は 1 → 2 です。先に日付を決めて後から方位を探すと、上の表の 0 日の側に入り込むことがあります。年別の方位の並びは方位の年別ページにまとまっています。

同じ方位でも本命星によって答えが変わるので、家族で本命星が違うときは全員ぶんを重ねて見る必要があります。時期ツールには合流する人を登録する欄があり、全員が動ける日を 2 年ぶん出せます。どの規則を採っているかは使い方ガイドに明示しています。

注記

九星気学・風水・奇門遁甲・暦注は伝統的な考え方であり、効果が科学的に確認されたものではありません。本記事で触れた予定説やウェーバーの議論についても、その当否を主張するものではなく、「どこまで決まっていると考えるか」という枠組みの違いを整理したものです。Cloud Palette は計算条件を整理する道具で、将来の出来事を保証するものではありません。方位や時期の判定とは別に、家賃、災害リスク、契約条件、通勤時間、医療・教育環境、家族の合意を必ず確認してください。

自分の場合はどうかを、同じ基準で確かめる

この記事で説明している判定は、サイト内の道具と同じ計算で出しています。生年月日と今住んでいる場所を一度入れれば、どの道具も同じ設定を読みます。

判定の考え方と出典、何を保証していないかはこのサイトについてに書いています。

記事の内容について、自分の場合はどうだったかを書いてください。実際に動いたあとどうだったかまで書けると、同じことで迷っている人の判断材料になります。