なぜ方位によって吉凶が決まると昔の人は考えたのか
方角に良し悪しがあるという発想は、どこから出てきたのか。太陽と季節、北極星、季節風と地形、都の設計、そして「説明のつかない不運に理由を与える」という働き。方位の吉凶が生まれた理由を、当時の条件から辿ります。
先に結論
方角に良し悪しがあるという発想は、思いつきで生まれたものではありません。当時の条件のもとでは、それなりに筋の通った推論でした。
大きく 4 つが重なっています。
- 方角は、季節と時刻を測る唯一の物差しだった
- 日本の地形と季節風では、方角によって住み心地が実際に違った
- 都と屋敷の設計そのものが方位で決まっていた
- 説明のつかない不運に、理由を与える枠組みが要った
順に見ていきます。最後に、そのうちどれが今も残っているのかを書きます。
1. 方角は、暦そのものだった
時計も暦もない時代に、時間を知る手がかりは空しかありませんでした。
太陽は東から昇り、南を通り、西へ沈みます。季節が変わると、昇る位置も南中の高さも変わります。 冬至の日の出は最も南寄り、夏至は最も北寄り。これは毎年きっちり繰り返します。
つまり当時の人にとって、方角と季節と時刻は同じ一つのものでした。「東」は朝であり春であり、「南」は正午であり夏である。この対応は観察できる事実です。
夜は北極星が動きません。北は、天が回る軸として特別な意味を持ちました。
ここまでは天文学です。問題は次の一歩でした。
方角が季節と時刻に対応するなら、季節や時刻に良し悪しがあるように、方角にも良し悪しがあるのではないか
種まきに適した時期があり、適さない時期があるのは事実です。その対応を方角へ延長したところに、吉凶という発想が入りました。ここが観察から解釈へ渡る境目です。
2. 地形と季節風では、方角で住み心地が違った
これは日本の条件に強く依存します。
- 冬の季節風は北西から吹く。 北西が開けた土地は冬に寒い
- 日射は南から入る。 南が開けていれば冬でも暖かく、日照りは長い
- 背後に山、前に水という地形は、風を防ぎ水を得やすい
家を建てる場所として、南向きで北に山を負う土地が有利だったのは本当のことです。中国由来の風水(四神相応)が日本で受け入れられたのは、この経験と噛み合ったからだと考えられます。
平安京の造営でも、北に山、東に川、南に池、西に道という配置が意識されたと伝わります。都の設計に採用されるほど、当時は実用的な知識として扱われていました。
ただし注意が要ります。ここで効いているのは気候と地形であって、方角そのものではありません。南半球なら日射は北から入りますし、季節風の向きが違う土地では結論も変わります。方角に固有の性質があるのではなく、その土地での方角の意味がある、というのが正確なところです。
3. 都と屋敷が、方位で設計されていた
古代の都は、方位に沿って作られていました。
条坊制の都市は南北・東西の格子で区切られ、内裏は北に置かれ、天皇は南を向いて座ります。「天子南面」という言葉のとおりです。役所も貴族の屋敷も、この格子の中に配置されました。
すると、日常のすべてが方位で語られるようになります。誰かの家へ行くのは「東へ行く」ことであり、引越しは「西へ移る」ことです。位置を表す言葉が方角しかない社会では、出来事の記述も自然と方角を含みます。
平安貴族の日記には、方違え(かたたがえ)の記録が数多く残っています。目的地の方角が悪いとき、いったん別の方角の家に泊まってから向かうという手続きです。実際の行動が縛られていたことが分かります。
4. 不運に理由を与える枠組みが要った
ここが、いちばん人間くさい理由です。
病気の原因が分からない時代でした。子どもが死ぬ理由も、火事が起きる理由も、事業が傾く理由も分かりません。分からないまま放置される不運は、耐えるのが難しいものです。
方位の吉凶は、そこに枠を与えます。
なぜ引越してから病気になったのか → 方角が悪かったから
これは説明として機能します。原因が特定でき、対策も立てられる(次は方角を選ぶ)。何も分からないよりは、はるかに耐えやすい。
同時に、この形の説明には弱点があります。当たっても外れても説明できてしまうことです。引越して不調なら「方角が悪かった」、好調なら「吉方位だった」、何も起きなければ「作用が出るのは 4 年後」。どう転んでも枠は傷つきません。
この点は統計的な裏づけはあるのかで詳しく書いています。
陰陽五行という「接着剤」
上の 4 つを一つの体系にまとめたのが、陰陽五行説でした。
- 万物を陰と陽に分ける
- 木・火・土・金・水の 5 つに割り当てる
- その間に相生(生み出す)と相剋(打ち消す)の関係を置く
方角にも五行が振られます。東は木、南は火、西は金、北は水、中央は土。季節も同じく割り当てられます。すると、方角・季節・色・臓器・性格が、すべて同じ表の上で結びつきます。
この枠組みの強みは、何にでも適用できることです。そして弱みも同じで、何にでも適用できるものは、外れを見つけられません。
今も残っているのはどれか
4 つの理由のうち、現代でも成り立つものと、成り立たなくなったものがあります。
| 理由 | いまの状態 |
|---|---|
| 方角=季節と時刻の物差し | 役目を終えた。 時計と暦がある |
| 地形と季節風で住み心地が違う | 今も本当。 ただし方角ではなく、その土地の条件の話 |
| 都と屋敷が方位で設計されていた | 無くなった。 現代の街区は方位に沿っていない |
| 不運に理由を与える | 今も働いている。 ここが体系を生き延びさせている |
2 番目は残っています。南向きの部屋が明るいのも、北西の角部屋が冬に寒いのも事実です。ただしそれは建物と気候の話で、九星気学が言う吉凶とは別のものです。方位を見るより、日照時間と断熱性能を見るほうが直接的です。
4 番目も残っています。むしろ現代のほうが、選択肢が多いぶん決めきれない場面が増えました。決める理由がほしいという需要は消えていません。
このサイトの立ち位置
このサイトは方位の吉凶を計算しますが、その計算が現実の結果を良くすると主張していません。
やっているのは、複数の体系の規則に沿って条件を整理し、比較できる形にすることです。あわせて物件を方位で探すでは、方位と家賃を同じ表に並べています。家賃の差は検証できて、方位の吉凶は検証されていない——性質が違うものを、違うと分かる形で置いています。
昔の人が方位に意味を見出した理由は、当時の条件では筋が通っていました。その筋が今も通るかどうかは、理由ごとに分けて考えるほうが正確です。
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